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「買春」罰則強化で「売る側」が“支援から孤立”の懸念…

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「買春」罰則強化で「売る側」が“支援から孤立”の懸念…当事者ら400人超が集会で訴えた“売春防止法改正”の課題

法務省の「売買春に係る規制の在り方検討会」は、現行の売春防止法では処罰対象外とされてきた「買う側」の勧誘行為等への罰則強化を盛り込んだ報告書案を本年9月に取りまとめた。今秋の臨時国会(5日招集)に向けた法案提出の動きが本格化する中、法規制のあり方をめぐる議論は重要な局面を迎えている。

成人間の合意に基づく売買春行為に対する法的介入は、個人の自己決定権や自由に関わる繊細な問題であり、多角的な検討が不可欠だ。とりわけ「売る側」である当事者の置かれた実態や安全、人権への影響を無視した法改正は、予期せぬ弊害を生む危険性がある。 法改正の動きに対してセックスワーカー当事者はどのような思いを抱いているのか。4日、当事者支援団体が開催した緊急シンポジウムでの当事者による議論や生の声を丹念に拾い上げ、法規制の強化が現場に及ぼす影響と実態との乖離(かいり)を検証する。(ライター・中山美里)

同じ日に開催された「2つのシンポジウム」

10月から始まる臨時国会を前に、緊急オンラインシンポジウム「STOP買春処罰!法務省『売買春に係る規制の在り方検討会』報告書を読む」(以下、「STOP買春処罰」)が開催された。

同じ日の同じ時刻、「ウィメンズアクションネットワーク(WAN)」が主催し社会学者の上野千鶴子氏(東京大学名誉教授)など有識者らが参加する「ストップ性売買!法務省『売買春に係る規制の在り方検討会』報告書を読む」(以下、「ストップ性売買」)も同時に開催されていた。

このふたつのシンポジウムの開催趣旨は、まさに現在の法改正議論が抱える「当事者の断絶」を象徴している。

「ストップ性売買」が性売買および性暴力の被害者の支援や根絶に関与してきた法学者、弁護士、社会学者、支援団体、活動家等の立場から報告書の問題点を明らかにするという内容だったのに対し、「STOP買春処罰」側は以下のように開催の趣旨を示した。

「1956年の売春防止法制定以来、立法の議論から当事者女性の声は常に排除されてきました。今回の法改正議論でも同様に、有識者による『机上の空論』や一部の意見のみが取り上げられ、当事者不在のまま検討が進んでいます。この現状に異議を唱え、現場で働く人々の安全・生活・権利を守る政策立案を目指し、当事者とアライ(※)の視点から法務省報告書の問題点を検証します」 ※理解者・支援者の意(Ally)。

442人の当事者が語り、構想する場へ

今回、私は、当事者主体の「STOP買春処罰」を取材。参加申し込みは442人に及び、法改正への関心の高さと当事者の切迫感を裏付けた。

今回のシンポジウムは、性産業に携わる当事者が法改正だけでなくセックスワーカーを取り巻く現場について議論を深める時間となり、今後の支援の在り方や性産業の社会的な位置付けにも話が及んだ。

冒頭、主催のひとりである河原梓水氏(歴史学者、福岡女子大学国際文理学部准教授)より今回の趣旨が改めて説明された。

「今回の売春防止法改正をめぐる議論は、セックスワーカーに対するふたつの立場を改めて浮き彫りにしました。すなわち、セックスワークを労働として認め、セックスワーカーを『報酬を得る労働の主体』とみなす立場と、性産業は女性に対する暴力・搾取であり、廃絶を目指すべきだとする立場です。

後者の立場をとる人々のシンポジウム(WAN主催)の登壇者を見ても、法学者や社会学者、支援者が並び、当事者の名前は見えません。当事者が政策を構想する側に入らないまま法改正が進む構図を、私たちは拒否します」

さらに主催者は、当事者が置かれている現状について次のように説明した。

「世間では『哀れな被害者』と『主体的で幸せなワーカー』という二項対立で語られがちですが、実態は複雑で、重なり合っていて、一人の中も揺れ動くものです。ふたつの像にそれほどの隔たりはありません。法改正をめぐる議論の場に、主体としてセックスワーカー自身が位置付けられていないと考えるからこそ、私たち自身が語り、構想する必要があるのです」

続いて、いわゆる「北欧モデル」(売春する女性を救済すべき被害者と捉え、買春者のみを処罰する仕組み)を導入した海外諸国における長所と、実際に生じている「取引の地下化」「治安悪化」「支援からの孤立」といった問題点の整理が行われ、セックスワーカーの健康・安全・権利を守るために活動する当事者団体「SWASH」代表のげいまきまき氏は、当事者の多様性について言及した。

「メディアで扱われがちな『若くて孤立した社会的弱者』だけがセックスワーカーではありません。さまざまな人がいて、多様な体験がある。この仕事をやっている限りは、健康で安全に仕事ができ、健康で安全に辞められる環境が何より重要です」

フェミニズム雑誌『シモーヌ』を刊行する版元サッフォーの山田氏は、法務省報告書について問題点をピックアップし次のように指摘した。

「報告書は依然として『社会風紀』の維持にこだわっている印象を受けます。人権視点に基づかない表現が維持される限り、当事者へのスティグマ(社会的烙印)は軽減されません。検討会に当事者委員が存在せず、セックスワーカーが直面する問題が制度設計に組み込まれないこと自体が構造的な問題です」

また、性産業に対する職業差別による心理的な負担や生きづらさなどを解消し、偏見のない社会のために活動する一般社団法人sienteからは法改正に対する要望書を提出したことが報告された。 要望書では、現行の売春防止法の1条で売春にまつわる性道徳や社会規範について定められていることがスティグマを生み出していることや、売買春行為を含む性の自己決定と社会問題を分けて考えてほしいといったことに触れており、性産業で働く人たちの生きづらさを解消するために長期的な検討も行ってほしいと伝えたとのことだった。

「本名で働けない苦しみ」――消えないスティグマの実態

後半は当事者によるディスカッションが行われ、セックスワーク経験者から、社会に根深く残る差別や偏見について、また働く現場での体験について、実態に即した切実な声が相次いだ。

「前職では本名で働いていたのに、風俗の仕事ではなぜか本名を使うことに恐ろしさを感じてしまう。やっている労働自体にさほど差があるわけではないのに、自分として存在できない感覚がある」

「覚悟を決めて実名で活動しようと決意したものの、公的な場で写真提出を求められると恐怖を感じてしまった。『世間から良く思われない仕事をしていた』という視線が頭をよぎり、スティグマが社会に根強いことを実感する。法律には、このスティグマをどう解消できるかという当事者の声を取り入れてほしい」

また、仕事の現場やプライベートで受けた性犯罪の被害、「稼げる」「稼げない」のはざまで仕事の受け止め方が変わること、日本で包括的性教育がされていないために「性」に対する考え方や対人スキルに個人差があることなどが90分に渡って口々に語られた。

性産業で働くという経験には多様な側面が存在する。「経済的に助かった、生き延びられた」という経験が強ければ肯定的な受け止めになり、「辛い被害に遭った」という経験が強ければ否定的な受け止めになる。

しかし、多くの当事者にとって両者はグラデーションとして存在しており、「良いことばかり」「悪いことばかり」と単純化できるものではない。 問われているのは、個人の複雑な体験を政治的に利用することなく、「貧困」「犯罪被害」「社会的差別」といった困難や生きづらさを解消するために、現場に即したどのような法整備や支援が必要なのかを冷静に論じることだ。

買春者処罰が招く「支援からの孤立」とアングラ化

シンポジウムの締めくくりとして、アウトリーチ(※)に携わった経験のある社会福祉士の武子愛さんが次のように発言した。

※積極的に対象者のところへ出向き、必要な支援や情報提供を行うこと。

「私たちがアウトリーチ活動で声をかけるのは、そもそも公的支援の必要性を感じていない、あるいは警察や行政を恐れている人たちです。買春処罰が導入されれば、取り締まりを恐れて当事者はさらに地下に潜り、私たち支援者に対してもそっぽを向いてしまうでしょう。

北欧モデルを実施した国で支援サービスへのアクセスが激減したことが報告されていますが、日本でも全く同じことが起きるのではないかと危惧しています」

参加者全体を通じて共有されたのは、「現在の法改正の流れは、決してセックスワーカーの安全や救済につながっていない」という強い危機感であった。

「保護」「救済」という美しい言葉の名のもとに、当事者の生活基盤と労働環境を破壊する「当事者不在の法改正」をこのまま許してよいのか。今秋の国会論戦を前に、現場の切実な怒りと不安の声が響いている。

■中山 美里

1977年、東京都生まれ。一般社団法人siente代表理事の傍ら、性風俗や女性の生き方などを中心に雑誌、WEBで取材・執筆を行う。性風俗関連の著書多数。
プロイフィールはこちら⇒https://www.ben54.jp/news/author/69

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